何故、わたしはここに居るの。なんのために生きているの。
ことあるごとに我らを悩ませ惑わせる、深遠なる命題。脳裏をよぎるのは身も心もずたずたになり絶望の淵に立たされし刹那。思い乱れ自信喪失していながら尚、自身がこの世に生を受けた意味、存在意義について思考を掘り下げなければならぬのは苦しい所作であるけれど、明晰な脳を持つ人類として生まれたからには避けては通れぬ、天から授けられた試練なのかもしれません。
とはいえ、この棘のトンネルを自力で通り抜けるのは至難の技。無論、筆者も例外ではなく、暗くて寒い辛苦の谷底に落ちて久しいある日、一筋の光を求めて手にとったのがアメリカの絵本作家、バーバラ・クーニーの作品「ルピナスさん」でした。
やわらかな色彩が心に染みわたるこの絵本には、ひとりの女性の清らかな一生が実に淡々と、爽やかに描かれています。まるで初夏の緑風が吹くごとく。
ルピナスさん、幼名アリスはおじいさんとエレガントな約束を取り交わします。
「世の中を、もっと美しくするために、なにかしてもらいたいのだよ」
「いいわ」
その時はなにをすればよいのか見当もつかないのですが、それでもアリスはその約束をしっかりと胸に刻み込みます。そして一生かけて「世の中をもっと美しくする方法」を模索し続け、ついに素敵なことを思いつくのです・・・。
この絵本を手許に置くようになってから、心のもやが晴れました。「何故、なんのために生きるのか」という問答にやみくもに取り組んでいたころよりは随分。思い煩う前に何はさておき、「自分は世の中を美しくするために生きているのだ」と考えることで自身の存在意義をくっきりと定めることができるのですから。
もし、書店でお見かけになりましたら、お手にとってみてください。嗚呼、押しつけてはいけませんね。けれど、美しいイラストを眺めるだけでも心がほぐれる名作なのです。本当に。(桃朗)