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ぼやけた白一色の雪景色から見える透明な硝子玉は、ひとつの思い出を見せてくれる。


 ぼやけた白一色の雪景色から見えてくるこの硝子玉は、とても透明な、あるひとつの思い出を見せてくれます。

 藤井 樹(中山美穂)が病院の待合室で、自分の名前を呼ばれる声で起こるぼやけた眩暈の空間。朦朧としている自分、幼い頃に死んだ父が病院に運ばれる記憶、中学時代の同じ名前の少年、藤井 樹(柏原崇)との初めての出会いの記憶、様々な記憶の交錯。

 図書室の窓際に佇んで本を読む少年(柏原崇)が、風でゆれた白いカーテンにつつまれ、消えてしまったような瞬きの感覚を感じる少女(酒井美紀)の一瞬の時間。

 博子(中山美穂)が雪山で遭難して死んだ恋人、藤井 樹へのありったけの想いを声に込め、空がまだ青みがかったばかりの、何も無いただただ白景色だけが広がる山の麓(ふもと)に向かう。そして・・・。

 交錯する時間と思い出と記憶の交わり方、同姓同名ということで、からかわれ複雑な思いを抱える二人が、クラスの悪戯で図書委員にさせられる、図書館のセット、白いカーテン、死んだ恋人を捨てきれない女性と、その恋人の中学生活の思い出を持つ同姓同名の女性を、中山美穂が二役演じるという意味も設定も全てが、「作品全体のうち一つが欠けても許されるべきではない」美しい硝子細工のように、一つ一つ繊細に映し出されています。

 登場人物の様々なすれ違いの想いを、糸をたぐるように編み上げていく過程は、細い一本の糸ではなく、雪色の羽をいくつも使い、心地いいやわらかさと、温度を伝えるように織りあげています。  映画を見終えたなら、中学の卒業アルバムをそっと一人で開いているかもしれません。(Hiko)

Love Letter
監督・脚本:岩井俊二  音楽:小林武史  撮影:篠田昇
出演:市原隼人 、忍成修吾 、蒼井優 、伊藤歩 、細山田隆人 、大沢たかお 、稲森いずみ 、市川実和子 、田中要次



目がごちそうを食べているみたい。気がついたら観た人自身もさらさらになっている。


 何もかもこれから始まるっていう空気をひしひしと描き出す。そんな映画です。北海道から東京へ上京、一人暮らし。いろんな「はじまり」がひしめくおはなし。つきまとう緊張感や、プレッシャーや、強張った頬っぺたを、あくまでやわらかく、やわらかく、包み込んで描いていきます。大学生活、片思いだった先輩との再会、自転車と風と花びらと、ピアノの音、本屋、映画館、国木田独歩の「武蔵野」、カレー、赤い傘、突然降る雨。そしてなにより主人公卯月のひたむきだましい。そんなものたちがさらりさらさらと流れていって、気がついたら観た人自身もさらさらになっているような。監督の切り取る画がこれでもかというほどするすると心地良く目に吸い込まれていきます。目がごちそうを食べているみたい。

 そんな、きらきらとした色彩や光の中で、一部異彩を放つ「生きていた信長」。え、時代劇?黒澤明ばりの、というより黒澤明のパクリ?いきなり白黒、そしてノイズ。ああそうか、日本映画はかつてこうだったんだ、内容ではなく、映像のはじまりを、見せてくれているのかしら。黒澤明へのオマージュに、ちょっとユーモアが見え隠れ。

 いろんな「始まり」を、静かに見つめていると、たしかに小さく、たけのこが頭を出すみたいに、元気が生えてきたりします。にょっこり。はろー。(菜摘)

四月物語
監督・脚本:岩井俊二  撮影:篠田昇
出演:松たか子 、田辺誠一 、藤井かほり 、加藤和彦 、留美 、江口洋介 、伊武雅刀 、石井竜也 、光石研 、松本幸四郎 、市川染五郎



岩井俊二のビジュアルセンスが、幻想的でリアルな恋人の関係を描く。


  山口智子と豊川悦史というビッグネームが主演する、おとぎ話のような短編映画。脅迫性緊縛症候群というあらゆるものを縛ってしまう萌美(まさに狂ってます!)と、業を煮やし彼女を縛り上げていく由起夫の2人の関係をシュールかつ艶かしく描いていく。

 物語の冒頭は淡々と普通の恋人同士の生活が描かれている。だが、買ってきたペットのカメの甲羅にドリルで穴を開ける場面や、艶かしいキスシーンのアップ(音がエロい!)など、ドキッとするシーンが随所に織り込まれている。美しい映像や音楽を少しずつ汚していくようにも見える。

 些細なことがきっかけになったのか、萌見は段々と症状をあらわにしていく。カメをぐるぐる巻きにしたり(のそのそと動かれるとおちつかないのよ)、リンゴを縛ったり。由起夫との生活のズレか、萌美の異常っつぷりがエスカレートしていく。

 あらゆるものを縛っていくことにより、部屋の中は次第に現実味を失い、まるでオブジェのようになっていく。

 淡い色の部屋。その部屋の縛られていく様子、由起夫に縛られていく萌美など...岩井俊二のビジュアルセンスが十二分に生かされている。

 ラブストーリー?サスペンス?ちょっと位置付けの困る映画だが、幻想的で、なおかつリアルな恋人の関係性を描いている。恋人同士で見るにはいい映画だと思う。二人でこれを見て劇中の由起夫のセリフを自分達に当てはめてみるのもいいかもしれない。

 「僕達は縛られていたのだろうか。それとも、解けていたのだろうか。」(yamamoto)

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製作:堀口壽一  監督・脚本:岩井俊二  撮影:篠田昇  音楽:REMEDIOS
出演:山口智子 、豊川悦司 、田口トモロヲ




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